ふわふわの雪山

 今日は久々に祖母の面会に行ってきました。

 今は新型コロナウィルスの影響で祖母と直接会うことはできません。老人ホームの別室に通され、タブレットPCを用いてのオンライン面会です。もう1年近くこの状態が続いているのですが、オンラインでも面会させていただけるだけで、本当にありがたいと思っています。

 

 祖母は91歳。老人ホームへ入所してから、もう3年ほど経ちます。認知症で、ずいぶん前から私のことが誰かもわかりません。祖母の調子と機嫌が良くて私の方も良い心持ちだった時、そして会話や表情に何かの取っ掛かりがあった時、そんな運がよかった時にだけ会える、私のおばあちゃんです。ただ、オンライン面会になってしまってからは、時間の制約があったり一緒にできることが限られてしまっているために、そんな祖母にはほどんど会えていません。

 けれども、全く思い出してもらえない時もなかなか愉快なお婆さんです。ひょうきんと言う言葉がぴったり当てはまるような、表情、仕草を繰り出してくるのです。世が世なら森光子さんのようになれたのではないか、と思ったことがあるくらいです(森光子さんを可愛らしい方だと感じた時に、祖母に似ていると思ったくらいなのですが)。また「誰」かは分からなくとも、「親しいもの」として受け入れて、友人の一人として迎えてくれます。

 もちろん、人間ですから調子の悪い時もあります。祖母は認知が阻害されているので、強い不安に支配され世界の理不尽さに怒りを感じていたりします。そんな時は顔色がくすみ、目が落ち窪んで焦点が合わず、体が丸まり、幻の世界の話を口にしながら、周囲の声が聞こえなくなります。そんな時の祖母は、私の知っている人間の中では『クリスマスキャロル』のスクルージーに似ています。

 

 さて、今日の祖母はどんな祖母だったか。

 今日はタブレット画面に映った瞬間から顔に張りがありませんでした。でも調子が悪いわけではなく、眠かったようです。「眠いの?」「寒くない?」などと話しかけてみるのですが、むにゃむにゃと何か喋っていて、話が進みません。こちらでは母と私が、向こうでは祖母と職員の方が、画面の向こう側に見えるのです。そうこうしていると、祖母の目はしばしばして頭も揺れてきました。それがなんだかおかしくて職員の方と笑っていると、祖母も「ふふっ」と笑いながら、とうとう机に頭を落としてしまいました。画面に映っているのは祖母の脳天です。白い髪で覆われた頭が弧を描く様子は、ふわふわの雪山のようでした。もう起きる気配もありません。笑っていたので、安心して確信的に寝ることに決めたのでしょう。その後は、その雪山、白い毛玉越しに職員の方と話をしました。

 こんな面会もたまにはいいものです。